賃貸経営ニュース

2025年4月1日

LPガスの商慣行、無償貸与に罰則!注目点は?

56%のガス事業者が集合住宅の設備費を負担経験ありと回答

賃貸物件におけるLPガス(プロパンガス)の料金の請求については、長年にわたり入居者に不利益をもたらす商慣行があると、国や有識者などから指摘されてきました。
この商慣行を是正するため、関連する法律の改正や料金の提示方法の変更などの施策が次々に進められてきました。
その内容は、賃貸オーナーにとって非常に重要です。今回は、法改正までの流れや重要ポイントについて詳しく解説します。
入居者に不利益をもたらしてきたLPガスの商慣行は、一般的に「無償貸与」と呼ばれています。
これは、賃貸物件に設置する以下のような設備をガス事業者がオーナーに無償で貸与(実質的に提供)するものです。

・給湯器
・ガスコンロ
・エアコン
・インターフォン
・Wi-Fi機器 など

これらの設備の費用は、後日、入居者のLPガス料金に上乗せして回収する例が多く見られました。
エルピーガス振興センターによる2023年度の調査によると、4,532件のガス事業者のうち56.2%が賃貸オーナーや不動産会社からの要求で給湯器などの設備費を負担したことがあると回答しています。

集合住宅の設備費用をガス料金でまかなう問題点とは?

自己所有の戸建て住宅の場合、LPガス料金に設備費用の上乗せがない通常の契約であれば、不利益を被るリスクはありません。
一方で、賃貸住宅の場合、無償貸与によって入居者が知らないままに設備の費用を負担し、割高なガス料金を支払うという問題が生じる可能性があります。
賃貸借契約の締結前の重要事項説明では、賃借人が負担する「賃料以外に授受される可能性のある金額」についての説明が求められます。しかし、LPガス料金に設備費用を上乗せするケースでは、これが守られていないと言えるでしょう。
無償貸与が発生する原因は2つあります。1つ目は、ガス事業者から営業目的で不動産会社や賃貸オーナーに無償提供を提案する場合です。
2つ目は、賃貸物件のオーナーや不動産業者からガス事業者に対して無償提供を依頼するものです。

2023年12月〜:LPガス商慣行通報フォームを設置

LPガス料金に関する無償貸与を問題視した経済産業省はワーキンググループを開催し、LPガスの商慣行改革に取り組んできました。
改革の第1弾として2023年12月から「LPガス商慣行通報フォーム」が設置されました。
通報フォームは、強引な営業を行うLPガス事業者や不動産会社に関する情報提供を受け付けるためのものです。
通報者は事業者でも消費者でも構いません。このフォームを利用することで、具体的な事業者名、事業者の属性、強引な営業の内容などを手軽に通報することができます。
なお、フォーム内の事業者の属性の選択肢には、LPガス事業者のほかに、「管理会社や仲介会社」「物件の大家」などの項目も含まれています。
この通報フォーム設置の背景には、経済産業省が省令改正に動いていることから、制度改正前に強引な営業行為を防ぐ意味合いがあるようです。
なお、通報フォームは、本稿を執筆している2025年2月時点でも引き続き通報を受け付けています。

2024年7月〜:過大な営業行為の制限、適切な情報提供

LPガスの商慣行改革の第2弾として、2024年7月に施行された「液化石油ガス法省令改正」では、以下の2点が大きく変更されました。

・LPガス事業者による過大な営業行為の制限
・LPガス料金に関する適切な情報提供

まず、変更点の1つ目である過大な営業行為の制限ですが、これは前述の「各種設備の無償提供」のような、通常の商慣行を超えた利益供与を禁止する内容となっています。
また、入居者がガス事業者を切り替えようとする際に、これを制限するような条件付きの契約締結も禁止されています(例:契約の解除を申し入れた際に、貸与設備の買取を求められるなど)。
そして、変更点の2つ目である適切な情報提供については、賃貸借契約を締結する前の入居希望者に対して、ガス事業者がLPガス料金などを事前にきちんと明示することが努力義務となりました。
さらに、入居希望者からガスに対して「情報提供をしてほしい」というような要請があった場合、それに応じることが義務付けられています。
「過大な営業行為の制限」と「適切な情報提供」に違反した場合、ガス事業者は30万円以下の罰金や事業者取消の対象となります。
この省令改正により、入居希望者は契約締結の前段階で、LPガス料金の内容を把握しやすくなりました。
そのため、光熱費に敏感な入居希望者がLPガス料金を比較して物件を検討することも考えられます。

2025年4月2日〜:三部料金制 (設備費用の外出し表示)

LPガスの商慣行改革の第3弾である「三部料金制(設備費用の外出し表示・計上禁止)」とは、LPガス料金の透明化を促進するための取り組みです。
この制度では、検針票に表示される料金の内訳を以下の3つに区別して記載することが義務付けられています。

① 基本料金
② 従量料金
③ 設備料金

三部料金のうち、1つ目の「基本料金」とは、ガスの使用料などに関係なく毎月請求される固定費を指します。
2つ目の「従量料金」は、ガスの使用量に応じて変動する費用を指します。
そして3つ目の「設備料金」とは、LPガス消費機器の費用を指します(例:配管の配置・保守費用 等)。
これまでのLPガス料金は、基本料金と従量料金のみで表示される「二部料金制」が一般的でした。この方式だと、従量料金に設備費用を組み込みやすいため、純粋なガス使用料金が不明確になりやすい構造でした。
「三部料金制」の導入により、設備に関する費用が外出し表示されることで、消費者は「設備費用が存在するかどうか」、そして「存在する場合はいくらか」を認識しやすくなります。
なお、賃貸住宅向けのLPガス料金については三部料金のうち、「設備料金」を計上すること自体が禁止のため「0円」と表記されることとなります。

賃貸経営にもコンプライアンスが求められる時代

前述のように、今回の法改正で、罰則の対象となるのはガス事業者のみです。だからといって賃貸オーナーが、無償貸与の問題に無関心なのは危険です。
SNSが発達した現代では、「入居している物件のLPガス料金が高すぎる!」「事前に情報提供を受けていない!」といった入居者の不満の声が拡散し、その結果、空室だらけのブラック物件になってしまうリスクがあります。
賃貸オーナーは所有物件を担当する管理会社やガス事業者が、入居希望者に対して適切なサービス提供を行っているかを確認し、必要に応じて改善を要請していくことが重要です。